大森、大森、大森






・日曜日、風景画教室。駒込旧古河庭園へ。ジョサイア・コンドルの設計ではこれが一番好きだ。今回は外側からスケッチ。みればみるほと良い建物。旧岩崎邸や三菱一号館より断然良い。フランス式の庭園はあまり好きではないが、ここの薔薇園は素敵である。シンメトリーな構図なのに、不思議と硬い感じはしない。スケッチの後駒込近くの日本料理屋で御馳走になる。


その後上野毛多摩美のデザイン科卒業制作展を観に行く。去年教えた学生に会い、久闊を叙す。「おお!先生っ」とすごく嬉しそうに声をかけてくれるのは、たいへん有りがたい。



夕方、金曜日にオープニングパーティーが有ったのにも拘わらず行かれなかった、水田紗弥子企画≪入る旅人 出る旅人≫vol.1ろばの道、を観に行く。上野毛から池上まで東急線で移動。池上から只管歩く。大田区、然も池上と云う土地は初めてで、非常にアウェイな気持ちで、歩けば歩くほど不安になる。「ほんとうにやっているのだろうか?」住所だけを頼りに歩きに歩き、迷いに迷い、ついに辿りつく。会場は≪DOROTHY VACANCE≫と云うサイケな洋服や小物を扱うショップ&ギャラリー。http://dorothyvacanceshop.blogspot.com/ 
実質的には松本力と云うひとの個展であった。非常に物語性の強い作家で、夢だか現実だか判らないようなところでいきている、獏のようなひと。ちょうどその日インタビュー企画があったので、それを聴いて、そんな感じでぼちぼち他のアーティストとも交流を深めつつ、帰る。水田氏ともゆっくり話すことが出来、面白そうな感性のキュレーターなのではないかと思う。≪入る旅人 出る旅人≫vol.2ろばの空間、も観に行こうと思う。帰りは池上ではなく大森駅から荻窪まで・・・と、ふと気が付くとコートを着て居ないではないか!何とコートを会場に忘れて来てしまったのだった。何故こんなに寒いのにも拘わらずコートを着るのを忘れてしまったかと云うと、風景画教室のために異常なくらい厚着をしていたからだ。仕方ないので次の日に取りにいくことにする。





・月曜日。朝、机の前に積み重ねてあった本の山が本格的に崩落した。このような大規模な崩落ぶりは東日本大震災以来。なんとかパソコンやカメラが無事でよかった。昼、カーネーションを観てから、再びコートをとりに大森へ。ふたたび≪DOROTHY VACANCE≫。オーナーのGが居て、ゆっくり話をすることができて良かった。昔、ほんの少し関わった画廊で一緒に働いていたことがあったのをGが憶えて居てくれて、久方ぶりの再会でもあるのだ。一時間くらい話しただろうか。話題が盛り上がってきたところで私は南行徳の仕事まで行かねばならぬので、お店を後にする。途中写真を撮りながら大森駅まで歩く。その途に古本屋があり、そこで『[日本の作曲家たち]戦後から真の戦後的未来へ』(秋山邦晴)の下巻が四百円で売っていて、喜んで買う。
大森駅着。無事電車に乗ったところでまたもや忘れ物をしたことに気づく。宮川淳の『美術とその言説』、阿部良雄の『絵画が偉大であった時代』、それに勤めて居る大学に出す作品論文の三点が入って居た手提げ袋を失くしたのに気付いたのだ。慌ててGに電話してみるが、今度は店にはないようだ。併し南行徳の仕事に間に合わないので、取り敢えず南行徳に向かわなければならない。


七時半。無事仕事を終えて、またもや大森へ。先程歩いて来た道をまた戻る。途中警察で紛失届を出し、駅でも相談するが、目当てのものは出てこない。ただ、徹底的に捜し歩いたので、少し気がまぎれる。残る可能性は、途中で立ち寄った古本屋である。明日にならないと店が開かないため、今日のところは諦める。
宮川淳阿部良雄の得難い友情の結実の往復書簡をはじめ、ボードレールクールベ、近代、モダニズム、ひいては美術全般にわたって深く思索するのにまたとない良著を失くしたのはあまりに哀しい。泣きたくなる気分だ。明日あることを願いつつ。



真夜中。ama2k46が送ってくれたモートン・フェルドマンの《ピアノと弦楽四重奏》を、照明を落として聴く。心が落ち着く。






・購入
『日本の作曲家たち』戦後から真の戦後的な未来(下) 秋山邦晴 音楽之友社

杉浦康平の装丁が素晴らしい。