武蔵美・国分寺






・卒業校である武蔵美に用件があったので久しぶりに行く。何年がかりもの大工事&修復作業が完了し、私が居た時とは見違えるほど凄く素晴らしい大学になって居る。新しいスタイリッシュな建物がにょきにょき立ち並び、展示空間、休憩場所などがたくさん用意されて居る。特に美術館はこれが同じ建物なのだろうかと云うくらいに徹底して空間を再検討したらしく、五つも六つも素晴らしい展示空間が用意されており、その中でもなかなか見ごたえのある企画をやって居る。(前、「図書館」として使用されていた空間が、新しい図書館が完成したためにすべて展示空間として使用出来るようになったのも非常に大きいだろう)


特に「大辻清司フォトアーカイヴ」写真家と同時代芸術の軌跡 1940-1980 は俄然「ぜひとも見るべき」展示である。実験工房やグラフィック集団の面々や、丹下健三設計の国立代々木競技場が建築途中の、骨格が剥き出しの写真が数葉あり、これには滅茶苦茶感動した。圧倒的な造形美を誇るあの建築の中心部分の骨格部分を大辻がこれまた絶妙な角度と白黒写真の迫力で切り取って居る。実験工房は勿論、錚々たる現代音楽家達の生き生きとしたショットや、暗黒舞踏も見ごたえがある。大半は白黒写真なのだが、何葉かカラー写真があり、それがまた素晴らしい出来で、ほれぼれしてしまう。都会の高速道路?やビルの狭間の幾何学的で重くしかしキレのある一点、そしてたぶん採石場だと思われる工事現場の数葉。これらはいつまでも観ていたくなる。家のシリーズも出色で、壊される前の家を撮ったものや、新築を撮った連画等も十分すぎるほどその家の雰囲気と歴史とそして新鮮さ等が現前してくるものばかりだ。
そのあと新しく出来た図書館とイメージライブラリーに行く。卒業生は、借りることは出来ないが閲覧することは可能なのである。その図書館の豪華さときたら半端なく、圧倒的な建築の図書館であり、こんな図書館や美術館、設備があれば、今からでも武蔵美に入学したくなるくらいである。あれほど馴染めなかった母校がこんな劇的な変貌を遂げて、嬉しいやらもどかしいやらである。イメージライブラリーにはアンゲロプロスキアロスタミ等は勿論、観たいと思っていた映画や貴重映像がほぼ網羅されているので、武蔵美に通って映像漬けになるのも悪くないと思う。ただ、ホセ・ルイス・ゲリンだけは「シルビアのいる街で」しか所蔵されて居なかったのは残念。


画廊でやっていた境澤邦泰展もなかなかジワリと絵具の堆積が説得力を持つ作品群で、パッとみはただの色面にしかみえないのだが、よく見続けて居ると彼の試みていることがだんだん画面の中から立ち上がってくるような感覚になる。境澤氏は私の学生時代の助手で前から作品を観ているのであるが、今回初めて作品に納得できた。



画材売場は世界堂が勢力を拡大し、ラボがなくなったのではないかと一瞬危惧したが、奥のほうの部屋になっていた。昔からよく気にかけてくれているSと云うおばさんがいつもいて、今日も居て、とても嬉しい。たまたま今日はちょっとお客さんが来ていなかったので長く話すことができてこれまたとてもラッキーである。Sさんに会うと非常に元気をもらえるのである。ずっと馴染めなかったムサビも、こう云う方が居るだけで良い思い出になるし、また行こうと云う気分になる。いつまでも居てほしい人である。






・バスに乗り、国分寺へ。switch pointに行く。何回か行ったのだが大体そういう時に限って定休日の時に行ってしまうので、結局半年ぶりの訪問である。今回は開いていた。そしてオーナーさんのHKととても愉しくゆっくりとこころおきなく喋ることができ、非常に仲良くなった。ムサビの画材売場のSさんと、HKさんと、今日は非常に良い出会いとお話をすることができ、きわめて明るい気分で帰途に着く。ずっと苦手だった大学時代の思い出が吹き飛ばされるくらい今日はムサビを好意的にみることができたし。これはかなり私の中では大きな転回である。






・購入
『破滅者 グレン・グールドを見つめて』 トーマス・ベルンハルト 岩下眞好訳 音楽之友社
『女はなぜ土俵にあがれないのか』 内館牧子 幻冬舎新書