入学式



・勤める大学の入学式。



・フェルナーの弾く《平均律》第一巻は、良い。音が透明感ありつつまろやかで、程よいペダリング。あくまで、現代のピアノにおいてのバッハと云うことを考えれば、考えうる最高峰の解釈なのではないだろうか。今までのバッハ演奏では余り考えられないような、とってもキュートな、心が甘くくすぐられるほどの旋律があると思えば、バッハならではの多重声の音の洪水の、神経が麻痺していくような快感はちゃんと失われていない。そしてこの人の場合特に特徴的なのは、トリルの輝かしさではないだろうか。他の人とは全く違う境地に在り、上品で刺々しくならず、味がよくしみこんだトリルである。あくまで清澄であり、だけれども、峻厳ではなく、俗な僕の心の奥をも判ってくれているような、救い出してくれるような演奏である。バッハを聴くと、どうしても内向的になりすぎるきらいがあるけれども、このバッハは、結構外向的になれるような要素もあり、陽性である。天にばかり祈っていないで、こっちにも語りかけてくるのだ。音のゆれの緩やかな大波が、包んでくれるようなおおらかな演奏だ。
「Prelude No. 17 In A-Flat Major, BWV 862」、こんなに心地よい旋律でしたっけ。BGMで何となく聴いていても、ついついあんまり心地よい響きなので、引き寄せられてしまう。