あまりにもあっけらかんキッチュで飄々と上品なへたくそ殿様エルメス



・朝、専門学校。前期のメインである課題「想像画」に取り組んでもらう。デザイン系学科なので普段はファインアート的な作品を創ることは少ないのだが、この課題では、納得が行くまで自由に「作品」を創ってもらう。課題は家に持ち帰ってもよし。兎に角じぶんの納得が行くまで作品をしあげてきてくださいという課題。さあ、今年はどんな素敵な作品が出来てくるのでしょうか。授業が終わって、K先生とプロントで食事。そのあとEKとNHとひさしぶりに電話。ふたりともこの三ヶ月試行錯誤を重ねて、漸く少し落ち着いてきて、軌道に乗りつつあるようだ。正直安心。よかった。


・そのあと母親から連絡があり、父親の展示を銀座まで観にいく。展示といっても油彩画の小作品ニ点を友達づきあいの絵画会に出しただけのささやかなものだったが、相変わらず非常に重厚なグレーを主体とした非常に堅牢な風格ある作品であった。一時期は試行錯誤の時期もあったが、最近の作品はまた前のようにどっしりした落ち着きと気品を取り戻したように思える。そのあと母親とルノアールでお茶。


・銀座に来たので、せっかくだし、と一昨日に続きまた画廊めぐり。INAXギャラリー。 http://www.inax.co.jp/gallery/contemporary/detail/d_001608.html
本堀雄二のダンボールで創った仏の一群にはちょっと驚く。仏像独特の静謐さや曲線美、重厚さなどがかなり正確に再現されているのに、ダンボールで創られた透け透けのかんじ。そしてギャラリーの中に「でかい仏像」が鎮座しているという違和感。インパクトはある。しかしながら、インパクトの先に見えてくるなにものかがあるのかは、ちょっとわからなかった。やりたいこと、やったことをハッキリとさせすぎている気もする。でも、「研究発表」という趣きで解釈したら、いいのかもしれない。

銀座に行くといつもギャラリー58に寄ってしまう、一昨日も行ったのに。相変わらずのNY(母)節は健在である。今日は作家さんは不在。その代わりといってはなんだが、YYがお客さんとして居た。初めて会うのでごあいさつ。暫く喋った後、YYは先に帰る。僕も帰ろうとしたが、帰ろうとしたところでMTが来て、久しぶりなので少し話す。画廊を出て、暫く道を歩くと呼び止められる。誰かなと思ったらさっきあったばかりのYYだった。YYは、折角銀座に来たのでこれからギャラリーめぐりをしようと思ったのだが銀座に不案内で困っていたらさっきあったばかりの僕が通りかかったのでどこか近くに面白いギャラリーはないのかと尋ねるべく僕に訊いてきたのだった。僕もこの後さして用事があるわけでもないので、YYに銀座のギャラリー案内をすることにした。


まず目の前にあったので、メゾンエルメスに行く。
元首相の細川護熙展をやっていた。
http://www.art-it.asia/u/maisonhermes/8xacL5AsWm3p2HXji6nz
メゾンエルメスとはあまりに場違いな絵画群。あまりに素人なのだけれど、大金持ちの殿様がのびのびと創っているそれらは、全くといっていいほど屈託なく大きく立派に飾られており、なかなか他では観られないような奇妙な空間を創りだしていた。絵画と併置されている陶芸群は、殿様らしく結構気品がある作品や、ときには思い切ったものがあったりもするのだけれど、それらとあまりなヘタな絵画との不協和音で、その異様に歪んでしまった空間を、改めて愉しむ。さらによく会場を歩いてみると、絵画や陶芸だけではなく石彫やら書やらなにやらいっぱい飾っているのであった。さらには藤森照信氏が設計したお茶室?の東屋までこしらえてある。メゾンエルメスの超緊張感のある鋭い空間のなかにあまりに屈託がないそれらが散在しており、しかもそれらが一様にお金をかけた形で立派に飾られているのがあまりにキッチュなのですが、しかし陶芸や一部の書などのお殿様的な品位が感じられたりする。突発的に冴えている作品もあったりする。・・・とにかく、上手いのもヘタなのも品のあるのもキッチュなのもぜんぶひっくるめて、すべてが、あっけらかんと、あまりにも飄々としているのであった。制作とか展示とかにあるべき共通了解の「なにか」を徹底的にずらしてしまって、結果的になにがなんだかよくわからなくなっているのにあまりにも飄々としている空気が漂っていて、思わず噴き出してしまうような「ありえない」展示である。
・・結論としては、コンプレックスを全く持ったことがない人間が、有り余る時間とお金をかけ趣味に没頭して、気儘に自己流に遊びつくすと、こういう「ありえない」世界ができるんだなあ、と、ものすごく感慨深いものがあったということを記しておく。


そのあと、シセイドウギャラリー、なつか、コバヤシ画廊、ギャラリーQ、巷房などを急ぎ足でYYに案内する。ここで大体の画廊が閉廊となる七時を回り、ちょっと疲れたので、ベローチェでお茶をする。YYのポートフォリオをみせてもらう。丸の内線にのり、新宿でYYとわかれる。帰宅。