徒然千夜0001







くいいるようにくわれし、私と月






くいいるように見つめたあの洞穴の中についに入ることになり、さぞかしそこは寒いだろうと月を齧りながらそう思う。そうすると洞穴の中からあの光が急に私に向かって飛んできて、齧りかけの月を奪うと瞬時に天空まで駆け上がろうとしたのだが、折悪しくも途中鳶の大群が飛来して居る最中だったのでその光は齧りかけの月もろとも鳶の大群に吸収されることになった。鳶の大群は太陽に照らされて青空の下、見事に逆光になって居たため、反射率は限りなく低かったのが致命的であったのだ。反射率が限りなく低いのは黒と云う色である。宇宙の中で余りにも反射率が低いところはブラックホールと云う。光すらも吸収してしまう究極の穴である。反射率が低いわけである。鳶はブラックホールだったわけである。


とんでもない素早さで鳶の大群は飛び去り、反射率のせいなのか、空にはぽっかりと穴があき、その中には鏡がいくつもいくつも層を形作って煌めきながら際限のない反射を繰り返していた。私はくいいるようにそれを見つめながら足を踏み入れた。鏡の破片が私の足を切り裂き、鮮血が鏡の透明性を侵食する。貧血になった私はうっかり倒れた。私は鏡に齧られた。