徒然千夜0002







素質の縞馬、耳掻きの王







素質の一つ手前で躊躇しがちの縞馬がもう一匹の縞馬に縞を預けて少し脱却しようと試みたが、矢張りそれだけでは素質を捉える事が出来なかった。銀の耳かきを取りだした素質を授けるその王は、その遣り繰りを全て監視していたので、その縞馬が来た時には、全て用意周到にその反駁の資料を提示することができたのだ。縞馬は一生懸命自分の縞が足りないことを力説したのだがその素質を授ける王は一向に銀の耳かきで自分の耳を掻くことを辞めない。痺れを切らした縞馬は追いつめられ、嘶くしかなくなり、あらん限りの声を絞り出して、何とかして素質の一歩先に出ようとしたのだけれども、矢張りそれくらいではちっとも、王は、その銀の耳掻きをテーブルに擱くことは無かった。


まさかとは思うが縞馬は突然後ろ足で王を蹴り飛ばし、王はその弾みで銀の耳掻きに脳天を貫かれてしまった。たちまちの裡に素質は王の周りを浸し、銀と融合し続け、縞馬を蔽った。縞馬は矢張り縞馬に脱皮し、縞馬は縞馬の儘だが終にその素質とやらを得たと云う。


来る日も来る日も真っ赤に燃え滾る太陽はその縞馬を照らし続け、次第に縞は漆よりも黒くなり、白い地はソノコよりも白くなり、コントラストはいやがおうにも鮮やかにその肌に現れたのである。その輝きは、矢張り銀の粒子のそれであったと云う。