『絵画の準備を!』





マイケル・フリードはむしろグリンバーグ以上にコンヴェンションということを強調します。絵画はコンヴェンションの再組織化であるというようなことをいっている。これはスタンリー・キャベルからきているともいわれるけれど、もっと素朴にT・S・エリオットに近いと思う。モダニズム的な歴史のなかで何が新しいとか、何が違っていたかというような進化史観というものをマイケル・フリードは否定した。モダニズムは進化史観的に考えられていて、自分もその末端であるようにみなされているけれども、自分は絵画は進化するものとは考えていない。作品を作るというのは、一種のコパース、無数の資料体のようなものがあって、そのなかでいくつかを選び出し、それらを組み立てること、新しいルールを暫定的に作ることである、というようなことをいった。これはここまでセザンヌについて語ってきたこととも通じる。・・・つまり普遍的なルールがあらかじめあるのではなくて、そのつど個々の作品を作るという行為においてルールが暫定的に作られる。そこには賭けの部分があるわけです。あるいは木下杢太郎が「調停」といった意味も暫定的ということでしょう。正しいルールを知っている人は誰もいないけれども、とりあえず話す、作ることにおいてルールを他者と共有できるように、その場をいかに組み立てるか。つまり、この調停が絵画を制作するということ、話す、書くという行為の意味である。

P281『絵画の準備を!』岡崎乾二郎の発言