健康診断、北千住、≪シテール島への船出≫






・五月三十日(水曜日)


・五週目なので鎌倉の絵画教室はない。しっかり睡眠を摂ると少し考えが軟らかくなり、頭の中がいったん整理される。朝、昼とあまり調子が出なかったがのんびり過ごす。西荻窪に行ってCDなどを購入。そのかたがた写真を撮ったりする。砂糖が切れたので購入。夜は制作。制作の時間はきちんと区切ってやったほうがいいことが漸く判る。一時間毎に休憩。その区切りさえ増やしていけば、後は何時間やってもやらなくてもいいことにしよう。そうすれば実感を持って捗る気がする。実感の持てるやり方を探すこと。夜、ブログ整理。





・五月二十九日(火曜日)


朝、専門学校の健康診断を受ける。右目が少し悪くなって0.6くらいになって居るが、昔もそれ位に落ちたことがあったので抛っておけば恢復するだろうと楽天的な観かたをして敢えて気にとめないことにする。視界が明らかにぼけていて吃驚したけれど。
あとは肺炎気味だと云う事を訴えたけれども、肺の音は綺麗と云う事。少し安心する。レントゲンを撮る時、空気を思いっきり吸ってくださいと云われて吸ったのはいいのだが、迂闊にもはいてしまったので慌ててもう一回吸った直後に撮られたらしい。空気を吸って居なかったらどう云う風に映るのだろう。少し縮んだ肺が映って居るのかもしれない。


診断が終わった後新宿御苑ベローチェまで行き、一時間ばかり読書、それから丸ノ内線―千代田線で北千住まで出る。北千住駅前の如何にも大衆食堂っぽい焼肉屋の定食ランチを食す。「ハラミ定食」五百円。ハラミは何枚かしか乗っていなかったが、ご飯とキャベツが大量に添えられていて、焼肉だれで味付けされている。少量のハラミを大切に食べるが、その味付けが美味しかったので、程ほどに満足。お腹にたまった。その商店街も非常に下町と云う感じで、庶民の足立と云うのを地で行く雰囲気であった。阿佐ヶ谷の昭和的な商店街とも少し似ているかもしれないがやはり北千住のほうがさらに「下町」的で、容赦なく、阿佐ヶ谷に漂うような甘い昭和レトロな雰囲気ではなく、もう少し「やばい」感じがあるところが、どすが利いていてよい。


写真を撮りながら「東京芸術センター」まで歩く。
何故ならばアンゲロプロスの上映会がやって居るからだ。≪シテール島への船出≫を観る。

<筋を忘れないための覚書(もう記憶が違っているかもしれない可能性も含めて)>
/宇宙が映し出される。星団や銀河等がぐるぐる回るが、そのうちプラネタリウムの映像だということが判る。過去の記憶。
/「アレクサンダー」と云う名前の子供が警官にちょっかいを出して逃げる、逃げていろんな家のドアを叩くが開かない。漸くキャメラがセットされている二階へかけて来て、キャメラの前の小さな門の下でくるまり、隠れている。その長回しのショット。(その名前は男の名前)
/男が登場する。映画監督か劇の脚本家か何かで、老人の役を捜し求めてか、数多くの老人を面接している色々な老人はすべて、「私だ」と云う。然し当てはまる老人は居ないようだ。その面接会場から急に何かを思い立っていらだちながら移動し、食堂にまで行く。と、入ってきたラベンダー売り?の老人。その老人を見るや否や、男は目の色を変えて呆然としてその老人を目で追う。愛人が「今日の夜どう?」みたいなことを男に話しかけるが最早男の耳には入らない。(事あるごとに愛人が出て男を待ち望むような発言をする。楽屋のようなところでも、ささやく。然し男はどことなく気が乗らないようだった。。(ところどころフェリーニの82/1を想起させる)
/一通り店の中でラベンダーをいらないかねと宣伝して、老人がその店を立ち去る。それを男はずっと食い入る様に目で追い、暫くして店から駆け出す。老人の後にぴったりついていく男。街。地下鉄の駅に行く。ホーム。絶妙なタイミングで電車が来る。その電車のかわいいこと!駅を出る。横断歩道のところで老人は男に少し顔を向けるが、さして気にしない。交番の前に出るが男はかまわない。前景に老人、そして男。後景に交番。警官が居て、見るからに怪しい挙動の男を少し見咎めるようなそぶりをするが、結局そんなに気にしないことに決めたようだ。老人は飄々と街を歩いていき、港の護岸まで到達する。護岸には老人ではなく愛人?が居る。老人は消える。
/女も船を乗っている?船の中で老人を探す。船から出てきた老人。男に向かって、「私だ」、と云う。老人は男の父親だった。女はたぶん男の妹かなんかだ。再会を祝し抱き合う。接吻。
/老人はヴァイオリンを抱える。
レジスタンス運動など?行い続けてロシアに居た老人が三十二年ぶりに村の家へ帰ってくる。約三十二年ぶりの妻との再会。テーブルには家族親戚一同が集まって再会を祝そうとする。三十二年ぶりなので誰が誰だか印象も薄くなっており、夫々に自己紹介をしたりするが、老人は落ち着かず、黙って奥の部屋に行き、妻とじっとみつめあい、三十二年ぶりの抱擁をする。老人を観に来た子供はドア際にその抱擁をみる。そこへやってきたその母親はその光景をみて、子供を諭すようにして、それからそっとドアを閉める。
/老人は黙って仕度をする。どこかにまた行く様だ。どこにいってしまうの?!と妻。老人は黙って家の外へ出る。とことこ歩いていく老人を男は早足で追いかけ追いつく。老人は居た堪れなくなり今夜は別の場所で寝るのであった。多分ホテルであろう。ベッドが設えてあるホテル?の一室。男と老人は話す。明日行きましょう、と。ここで大丈夫ですか?大丈夫だ。行け。男は立ち去る。立ち去った後に老人は呟く。やはり男に愛情はあるのだろう。
/霧の中、国境付近。霧の中、荒涼とした大地に墓。車から出る男。異常に上手い口笛を吹く。一瞬小鳥の鳴き声かと見まごうごとき。何かの伝達の手段であろう。響き渡る。
/男と友人か。ひとりひとり墓に向かって語りかける。もうみんないなくなってしまったのだろう。ひとりずつ語る。男は少しずつ、踊りだす。大地の彼方、荒涼とした高原の霧の中から多くの人々が来る。男は、それが疫病神たちだと云うような発言をする。
/鍵を開ける。二階に上がる。暫く使われていなかった家であろう、窓にはすべて新聞紙が張ってあり、それを老人は一窓一窓破っていく。いちばん右の窓だけなぜかはがされなかった。二階の机にはきちんとセットされた食器類が整えてある。
/家族会議。どうやら其処の家を含めた土地を売却すると云う話。村ぐるみで売却することに同意したらしい。それに対して黙って反対する老人。不穏な空気。
/売却当日。荒涼とした草原に祭りの如く村人たちが集う。調印式である。よく見ると老人も居て、如何にも落ち着きのないような表情と動きをしている。買収した会社のひとりが、演説をはじめ、如何にこの不毛な土地を売却してよかったかを語り、村人が一人でも賛成しなければこの話はないことにすると自信満々に云う。もう裏はとってあるからだ。それから村人一人ずつの調印を行うという。なんとかさん、なんとかさん、と、三人目くらいに差し掛かったとき、老人は終に我慢できずに駆け出し、調印式の会場から少し離れたところに刺さっている売却の土地の境界線の旗をなぎ倒し、それからその横にある掘立小屋に入ったかと思うと其処からシャベルを取り出し、せっせと境界線?土地?を掘り始める。
/事態を悟った村人達は騒ぎ出す。わいわいがやがやし始める。と、村長らしき男が駆け出してきて、老人と揉みあうのであった。帰ってきたと思ったらまたしでかしやがった!!また迷惑をかける気か!!・・・
/夜、売却予定の小屋で家族が集まり、今度はこれ以上ないと云うほど硬い表情でみんな夕食を食べている。多分食器をテーブルに設えてあった二階の部屋。と、窓の外から呼び出される声が。老人ではなくて、老人の妻が呼び出される。散々罵声を浴びせられるが、ひとこと今食事中ですのでと窓から云う。居た堪れなくなって友人は外に出ようとする。暫くしてまた呼び声がする。今度は老人が出向き、一階へ降り、外に出ると、先ほどの村長らしき男が居て、散々に老人をなじり倒す。お前なんかはもう死んだ人間だ!戸籍上はもう居ないことになって居るんだ!もう死んでいるんだ。
/老人が駆けていきシャベルを取った掘立小屋が火事で焼ける。焼け跡。老人はどこにも居なくなってしまった。老人の妻は焼け跡に駆け寄り嘆き悲しみ、男は寄り添う。警察におそらく家宅捜索を出したのであろう。警官が大勢集まって、老人を捜索する。荒涼とした墓場で老人と踊った友人が、例の口笛を吹いてみる。すると、食事をしていた小屋から返答の口笛が。口笛は暗号であったのだ。口笛の意味をひとつひとつ警官に通訳する友人。どうやら此処から出ないぞとのことらしい。妻が玄関まで行って、開けてくださいと云うと、老人が現れる。老人と妻は、一緒に並んで、此処に居ますと云う宣言をする。警官は何だ、大騒ぎさせやがってとぶつぶつ男に向かって文句を云いながら、男に、老人のことは全部あなたの責任になるよと云うようなことを云いながら帰っていく。
/男の仕事場。楽屋。脚本。老人のことのような脚本。
/すったもんだの挙句、老人は戸籍から抹消されている為と、村人からの非難の為に、国外追放になることになってしまう。/老人を乗せ、護岸から出る警察船。ロシアに向かう大船に老人を載せてしまおうと云う魂胆らしい。霧の中その大船に近づくと、警官は、この船にひとりロシア人が乗っています。船に乗せてくださいと大船に向かって云う。然し、その大船からは、その人に同意を得ていなければ乗せられませんと云われてしまい、警官たちはうろたえる。その人の意見を聴かせて下さいと云われるけれど、警官は、老人は意味不明なことを云っていてよくわかりませんと答える。なんて云う風に云っているかと云えば、「シナビタリンゴ」と云っていますと。残念ながらそのお客様は乗せることは出来ません、と大船の船長の声。船長、乗せると云う約束だったじゃないですか、と警官が云うが、大船はそれには最早答えず、汽笛を鳴らし、航海に出る。(「シナビタリンゴ」とは墓で歌っていた民謡に出てくる一節で、シナビタリンゴが四十人云々・・・と云う節。)
/老人の処置に困った警官は恐るべき策に奔る。老人をどこまでも国外に置いておきたいが為に、公海?の領域であるところに四角形の小さな浮島を浮かべ、其処へ老人を置き去りにしてしまうのだ。しかも土砂降りの雨の中に。置き去りにされる老人。傘を差しながら悄然と立ち尽くす老人。
/気がついた男は、老人にそんなことをして、人殺し!と罵倒するが、最早警官は「規則」に従っているのみである。警官は法律と規則で老人を海の上に追放する。男はどうしようもなく、護岸にある酒場&カフェのような処で落ち着かない。マジシャンが居たり、話しかけられたりするけれども、勿論そんなのは気にしても居られない。其処には、警官たちが入ってきて、海のほうを双眼鏡で確かめている。双眼鏡の向こうの、霧の向こうの、小さく霞んだ島のようなところには、おそらく老人が居る。
/楽団が入ってきて、わいわいやる。わいわいがどんどん最高潮に達し、愉しい音楽が奏でられる。必死になってどこかに電話をかける男だが、その音に遮られ苛々して、静かなところを求めドアを開けるがその向こうの暗がりにはセックスを音楽にあわせて愉しむ男女がパンツをずり下げてテンポにあわせてう運動している。
/窓の外に、黄色い合羽を着た自転車が横切る。一度目はさりげなく、二度目はもう少しはっきりと。
/楽団は演奏し、客はわいわい愉しみ踊る。警官が入ってきてそれを抑制する。警官は酒を注文する。
/女が云う、つまるところは我が身だ。
/老人の妻が駆け込んでくる。男に向かって、どうして知らせてくれなかったのかと。
/楽団は時間になったので、どんどん外に出て行く。外に出て行ってどこに行くかと云うと、護岸にセッティングされた仮設会場である。夕方になる。盛大に始まる。そして海に取り残された老人の為に演奏すると云い放つ。そして開会の式で、特別に老人の妻からひとこともらうと云う。
/暫くカフェの中に居た老人の妻は決然として外に出、その仮設会場に向かい、毅然として昇段し、海の彼方に居る老人に向かって、あなたの側に居たい、と重ねて云う。警察は、命令がないですが、そんなに居たいのなら居てもいいですよと云い放つ。
/暗い海に浮かぶ小船に老人の妻は乗り込み、老人の島に行ったようだ。
/夜明けになる。彼ら二人が島に正面に直立して立っているのが映し出される。夜明けだ。老人は島を繋いで居るロープを外し、二人を乗せた小さな島はゆっくりぷかぷかと海の彼方へ消えていく。


旅芸人の記録≫≪永遠と一日≫≪霧の中の風景≫と比べても、筋がかなりはっきりしている。併しどれも筋をせっせか追わないですむものであり、ワンシーンワンシーン、構図、音、筋・・・等の多角的な情報をじっくりと心行くまで味あわせてくれるのである。だからこそ、後で反芻するとき何時までも心にそれが残るのである。そしてあらすじをいくら綿密に載せたところでアンゲロプロスの映画をまだ観ていない人にとっても、いささかも興味を減じることがないものだと信じるのである。




・観終わってから、北千住を探索しようと思い立ち、どうも雲行きが怪しいと思いつつ、南千住まで歩く。川沿いの工場地帯、なにやら荒涼とした感じ、≪シテール島への船出≫の続きのような感覚である。隅田川まで歩き、護岸を只管歩き、橋を渡る。橋は強風に呷られ飛ばされそうであった。南千住側に行くと、足立区から荒川区になったようで、街が綺麗に整備されている。南千住駅は新都市と云った趣。近くに電車の停留所がある。一息ついて、カツどんを食す。


・六時頃、銀座に行く。シセイドウギャラリーに行き、さわひらき展。非常に素晴らしい。ギャラリー58で坂口寛敏展。メイン空間のインスタレーションや絵画はいまいちであったけれど、画廊の奥の空間に飾ってあったドローイングの数々は素晴らしい出来。


・この日は結局、22260歩も歩いた。





・五月二十八日(月曜日)
夜、余りに落ち込んで居たたまれなかったのでdhmoにメール。メールの返答でだいぶ軽い気持ちになり、よく眠れる。








・購入
『絵画について』ディドロ 佐々木健一訳 岩波文庫
『天才・悪』ブレンターノ著 篠田英雄訳 岩波文庫
『緑色の太陽』芸術論集 高村光太郎著 岩波文庫
『患者と医者』吉松和哉 岩波現代文庫
『カスパー・ハウザー』A.V フォイエルバッハ 西村克彦訳 福武文庫
荘子物語』諸橋轍次 講談社学術文庫
『完訳聊斎志異』1,2 蒲松齢 角川文庫
『眠らねぬ夜のために』第一部、第二部 ヒルティ著 草間平作 大和邦太郎訳 岩波文庫
『藤村のパリ』河盛好蔵 新潮社
『腰折れの話』江藤淳 角川書店
『RICORDO DI 〜MILANO』



≪Requiem fur einen jungen Dichter≫ Bernd Alois Zimmermann(1918-1970) wergo
≪パロディ的な四楽章・ジャワの唄声他≫ 深井史郎 日本作曲家選輯 NAXOS
≪ピアノ協奏曲「神風協奏曲」・交響曲第三番≫ 大澤壽人 日本作曲家選輯 NAXOS
シンフォニア・タプカーラ、SF交響ファンタジー 第一番他≫ 伊福部昭 日本作曲家選輯 NAXOS
≪Suarogate≫ Volker Staub(1961) wergo
≪Messiaen:Organ Music,Vol.3−Hans-Ola Ericssion≫ MESSIAEN,Olivier(b.1908) BIS
≪Nino Rota:Chamber Music−KREMERata MUSICA≫ ROTA,Nino(1911-79 ) BIS
≪The Russian Trombone≫ Christian Lindberg,trombone Roland Pontinen,piano BIS