抜粋



エマニュエル・レヴィナス『時間と他者』 原田佳彦訳 法政大学出版局



・不眠は、それは決して終ることがないだろうという意識、すなわち、もはや自分が捉われている覚醒状態[目覚めている状態]から抜け出るいかなる手だてもないという意識から、惹き起こされる。・・・無意識状態という隠れ家もなく、自家の敷地内に引きこもるように眠りのなかに逃れることもできない覚醒状態。このように<実存すること>は、それだけでもうすでに安らぎであるようなひとつの即自といういことではないのだ。・・・意識を規定しているのは果して覚醒状態なのか、意識とはむしろ覚醒状態から身を引き離す可能性のことではないのか、つまり、意識の本来の意味は眠りの可能性を背にした覚醒状態であるというところにあるのではないか・・・意識をとりわけ特徴づけているのは、眠るために、「背後に」退く(隠れる)可能性を絶えず保持している、ということである。意識とは、眠る能力のことである。この全的な逃避こそ、いわば意識なるものの逆説そのものなのである。