銀座ギャラリー巡り、大森





・銀座へギャラリー巡り。ギャラリー58武井文展。随分几帳面な絵である。田中敦子のような形態で、ゆるい筈なのだが、そう感じられる。感覚はいいところが多く感じられるのだけれどまだまだスケールが小さく底が浅くも感じられてしまうところもある。じぶんの中の「地図」を表現して居るとのこと。「のびしろ」を伸ばせるか。感覚的にも知的にも。ギャラリーに秋山祐徳太子氏が居て、現代美術館常設展の招待券をいただく。



ギャラリー小柳。ヘレン・ファン・ミーネ。犬と兎と人間の肖像。人間と動物を併置している面白さと云うわけか。大判でしっかり撮って居るのだろうが構図もアイデアも私には何故だかいまいち魅力的には感じられなかった。背後に何か深い思想が感じられるわけでもないし、上手いのだろうが、特になにかそれ以上と云うふうでもなさそうだ。



INAXギャラリー、堂東由佳展。http://inax.lixil.co.jp/gallery/contemporary/detail/d_002054.html
模様が只管連なっている版画。ギャラリーの真ん中にテーブルをいくつも置いて、水平に版画を並べるのは面白い。併し並べ方がまずいのか肝心の版画がいまいち引き立って居ない。壁に同じような模様を使った版画が二枚程度掛けてあるのだが、そちらは断然魅力的。僅かな構図の差異や並べ方が成功と失敗の差でもあろうが、おおきな違いはガラスの額縁に入って居ること。ガラスを介在させることで版画特有の生々しさ(盛り上がり)が抑えられて、非常に緊張感のあるものに変わって居ることに気づく。
私は基本的に版画と云う形態が好きではない。ペンや鉛筆で描いてあるのは、ある意味紙に彫ると云うような行為の堅牢性が感じられて心地よいのだけれど、版画の場合はどうも紙の表面にインクが乗っかっているだけで紙に喰い込んでいない、ふわふわしている感じがいやなのだ。鍍金のような頼りなさであるし、まるで中身がないように思ってしまう。ところがガラスを介在すると堅牢性が付与されて、とたんに魅力的な表情に変貌して居たのである。
(ただし四枚組の大きな版画もあって、それは成功して居るようには見えなかったので、やはりガラスや版画といった問題だけでは当然ないことも確かであるが)


銀座七丁目に出て資生堂ギャラリー。第6回shiseido art egg  鎌田友介展。http://www.shiseido.co.jp/gallery/exhibition/
紹介文によると、「鎌田友介は、3次元の現実世界を解体し、2次元に作り替え再び3次元空間に構成することで知覚のゆがみをつくりだすインスタレーション作品を展開しているアーティストです」とのこと。
作品は、≪3次元の物質である木枠を壊す(折る)ことで、壁面に2次元のパースペクティヴを出現させた作品≫と、≪使用済みのアルミサッシの窓枠約130枚を使って、多次元的な視点を同時に知覚できる空間をつくることを試み≫ている作品、の二つである。後者の作品はギャラリー空間をフルに使って圧倒的な物量なのだが、まさにこれこそ「演劇性」が強く生々しくて魅力的ではない。パースペクティヴの面白さが使用済みアルミサッシの非常に強いもの性によって台無しになってしまっているのであった。前者の作品のほうがはるかに魅力的である(前者では木枠が折れて居ると云う表情の強さが無理なく魅力となっている)。
そして驚いたのが、ポートフォリオ。≪使用済みのアルミサッシの窓枠約130枚を使って、多次元的な視点を同時に知覚できる空間をつくることを試み≫に似た作品群を、写真に撮ってそこに載せてあるのだが、この写真がどの作品よりも圧倒的に魅力的だし、このコンセプトの不思議さがいちばん引き出されていた。
要するに、大空間に色々に構成してみたもの自体を作品にするのではなくて、それを写真に撮ったものを「作品」にしたほうが、ものの圧倒的な強さに邪魔されることなく「パースペクティヴ」の魅力や「知覚のゆがみ」が十全に引き出され、凄く面白くなるだろうにと思った。




・銀座7丁目から新橋まで歩き、そこから京浜東北線に乗って大森へ手提げ袋を取りに行く。松村書店のおばさんはとてもいい表情をして手提げ袋を渡してくれた。白川由美似の(昔ではなく今の)、おおらかで魅力的な方である。その後大森の上島珈琲店にてケーキセットを頼み、論文の校正をやる。
夜、中野に出てベローチェで読書。中野から荻窪まで写真を撮りながら帰宅。






購入
『芸術の設計』見る/作ることのアプリケーション 岡崎乾二郎編著 フィルムアート社
『庭のたのしみ』西洋の庭園二千年 アンヌ・スコット−ジェイムズ著 オズバード・ランカスター絵 横山正+増田能子共訳 鹿島出版会
『夜の文学』 文学空間04 2007 風濤社
『輪廻の暦』 萩原葉子 講談社文芸文庫
リヴァイアサン』近代国家の思想と歴史 長尾龍一 講談社学術文庫